刻詠珈琲店26杯目「偽物のカードってあるの? 見分け方は?」オラクルカード【準備編】

カードデッキの選び方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

週末、昼下がりの『刻詠珈琲店』に、やわらかな秋の陽射しが差し込んでいた。

今朝は肌寒く、カーディガンを羽織って家を出た紬だったが、昼を過ぎた頃から気温が上がり、店に着く頃には額にうっすらと汗が滲んでいた。店内では、窓際の席で長袖のシャツを腕まくりした男性が新聞を広げ、奥のソファ席では薄手のストールを膝にかけた女性が、アイスコーヒーのグラスを傾けている。カウンターでは宗介が、白いシャツの袖を肘までたくし上げて、ゆったりとした動作で生豆を煎っていた。

外からは、散歩帰りの犬の鳴き声や、子どもたちの笑い声が時折聞こえてくる。季節の変わり目らしい、穏やかで少し曖昧な空気が、店内を満たしていた。

「宗介さん、あの…この前、ネットでカードを買おうと思ったら、すごく安くて、しかも箱がなんか安っぽいカードを見つけたんです。あれって、もしかして、偽物だったんでしょうか?」
紬は、不安そうに尋ねた。

「偽物…なんて、あるんですか?」

「残念ながら、あります。オラクルカードの人気が高まるにつれて、海賊版が出回ることが増えています。有名ブランドのバッグの偽物があるのと同じようなものですね。」
宗介は、そう言いながら、手元のコーヒーカップをゆっくりと回した。

「しかも、最近の海賊版は、以前よりもずっと巧妙になっている。昔は、紙が薄かったり、印刷が粗かったりして、すぐに見分けがついたものです。けれど、今は技術が進んで、紙質も印刷も、本物に近づいてきていますね。」

「え、じゃあ、どうやって見分ければいいんですか?」紬は慌てて宗介に質問した。
「まず、カードのサイズを確認してみてください。海賊版は、正規品と比べて、小さく作られていることが多いんです。ネットの写真だけだと、一見しただけでは気づかないこともあります。けれど、もし、本物を持っている友人がいれば、並べてみるとすぐに分かります。」

宗介は、カウンターの下から一つのオラクルカードを取り出し、紬に手渡した。
「これが本物のカードです。公式サイトには、正規品のサイズが記載されています。またJANコードと呼ばれる商品管理に使われるバーコードや、出版社から出版されたカードの場合はISBNコードも付いています。ですので、購入する前に、そのサイズやコードの有無を確認しておくといいと思います。」

紬は、そっとカードを手に取り、その感触を確かめた。
「確かに…。なんていうか、安心する手触りです。でも、サイズまで確認するなんて、思いつきませんでした。」
「そうですよね。そして、もう一つ、最近の海賊版に特徴的なのが、解説書の扱いです。」
宗介は、真剣な表情で続けた。

「本物のオラクルカードには、必ず解説書が付属しています。それは、作者がカードの意味や使い方を、丁寧に説明したものです。しかし、海賊版には、解説書が付いていないことが多くて、代わりに、箱の中にQRコードが印刷された紙が入っていて、『解説はこちらから』と誘導されます。」
「QRコード…?」
「そうです。そのQRコードを読み取ると、どこかのサイトに飛ばされて、そこで解説を読むように指示されます。これは、印刷コストを削減するための手口ですね。本物の解説書は、作者の言葉が一つ一つ丁寧に印刷されています。それを省略しているということは、そのカードが海賊版である可能性が極めて高いと言えるでしょう。」
「なるほど…解説書がないものは、疑ってみた方がいいんですね。」
「そのほうがいいでしょうね。オラクルカードは、作者の意図が解説書に込められていますから。解説書なしで売られているカードは、それだけで疑っていいと思います。」

宗介は、紬の瞳をじっと見つめた。
「そして、次に箱を見てほしい。本物は、しっかりとした厚紙で作られていて、開け閉めする部分も丁寧に作られている。けれど、海賊版は、箱が薄くてペラペラしていたり、印刷がずれていたり、色がくすんでいたりすることがよくあります。最近は改善されてきているものもありますが、細部をよく見れば、雑な作りに気づくことができます。」
「細部…ですか?」
「そうです。たとえば、箱の角の仕上げや、印刷の細かいグラデーション。本物は、そういった部分まで美しく仕上げられているものです。一方、海賊版は、どこか雑な印象を受けることが多いですね。」

海賊版オラクルカードの見分け方

出典:ヴィジョナリー・カンパニー「ペイフォワード」

「そうなんですね。でも、ネットだと、なかなかそういうのって見分けられないなって思います。」
「そうですね。なので、紬さんがカードを選ぶときは、いくつかの点に注意してみるといいですよ。安すぎるものはまず、疑うこと。そして、信用できる公式の販売元から購入すること。海外のオラクルカードであれば、日本の正規代理店が必ずある。そこから購入するのが一番安全だと思います。」

宗介は、真剣な表情で続けた。
「そして、もし中古のカードを探しているのなら、信頼できる場所を選ぶことですね。たとえば、オラクルカードを愛する人々が集まる『ペイフォワード会』のような場所では、海賊版は持ち込まれません。なぜなら、そこに集まる人々は、本物のカードを大切にし、その価値を理解している人たちだからです。」
「ペイフォワード会…先日、頂いたフライヤーで紹介されていたイベントですね!」

「そう。ヴィジョナリー・カンパニーという、オラクルカードの正規代理店が主催している会です。使わなくなった本物のカードを、次に必要としている人へと繋いでいく仕組みがあります。そこでは、一枚一枚のカードが、丁寧に扱われ、大切に受け継がれていきます。海賊版が混ざり込む余地はなくて安心です。」
宗介は、自分の胸に手を当てて言った。

「海賊版が巧妙になっているからこそ、私たちは慎重にならなければならないと思います。安さに惹かれて飛びつくのではなく、そのカードが本当に本物なのか、公式サイトで仕様を確認したり、信頼できる販売元を選んだりすることが大切です。」
「…そうですよね。ちゃんと確認しないとダメですね。」
「そうです。海賊版のカードには、作者が一枚一枚に込めた愛や、宇宙からのメッセージが宿っていません。それは、ただ絵柄をコピーしただけの、魂のない複製です。本物の絵画と、その精巧なコピーを比べるようなものですね。見た目がどれほど似ていても、その絵が持つオーラや、人々の心に訴えかける力は、まったく違うわけです。」
宗介は、穏やかな笑顔で付け加えた。

「そして、海賊版を購入することは、カードを生み出した作者の権利を侵害することにもなります。作者は、何年もかけて、一枚一枚のカードに意味を込め、絵を描き、言葉を紡いでいます。その努力と愛を尊重するためにも、私たちは本物のカードを選ぶほうがいいかと思います。」
「そうですよね。作者の方への敬意も大切ですよね。」
「その通りです。オラクルカードとの出会いは、一期一会です。紬さんが、そのカードに『このカードと一緒に歩んでいきたい』と感じたなら、それが本物です。その気持ちを、何よりも大切にしてほしいと思います。そして、本物のカードを、信頼できる場所から手に入れることで、紬さんは作者への敬意を示し、カードが持つ本来のエネルギーを、しっかりと受け取ることができるんですよ。」

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