刻詠珈琲店14杯目「浄化は絶対に毎回やらないとダメ?」オラクルカード【向き合い方編】

カードの使い方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

翌日、紬は仕事の昼休みに『刻詠珈琲店』を訪れた。
手には昨日浄化したばかりのオラクルカードを持っている。

「宗介さん、おつかれさまです!」
「おつかれさまです。今日も早いお昼ですね。」

宗介は手慣れた様子でエスプレッソマシンを操作しながら、紬を迎えた。

「実は、昨日の夜、さっそくカードを引いてみたんです。」

紬は嬉しそうに報告した。「『新しい始まり』っていうカードが出て、なんだかドキドキしちゃいました。」
「それは良いカードが出ましたね!」
「でも、今朝になって疑問が湧いてきちゃって…。」
「…というと?」

紬はカードの箱を撫でながら続けた。

「昨日せっかく浄化したのに、一回使ったらまた浄化しなきゃいけないんですか?毎回毎回?」

宗介は紬の前にカフェラテを置いた。
今日はハートの形にミルクフォームが描かれている。

「紬さん、どうして、そう思われたんですか?」
「だって、ネットで調べてたら『使う度に浄化』って書いてあるサイトもあって…。でも、それって現実的じゃないですよね?毎日カードを引きたいのに、毎回お香を焚いて浄化してたら、時間もかかるし、お香代もバカになりません。」
紬は少し困った表情で、ラテのハートをスプーンでつついた。

「ですね、わかります。」宗介は穏やかに頷いた。

「そうですね…。では、こう考えてみてください。紬さんは毎日、手を洗いますね?」
「はい、もちろんです。」
「でも、手を洗うタイミングはいつですか?トイレの後、食事の前、帰宅した時など、状況に応じて変えていませんか?」
「ああ、そうですね。汚れた時とか、必要な時に洗います。」

「カードの浄化も、それと似ています。」
宗介は静かに説明を続けた。
「毎回必ず、というわけではありません。必要な時にするものと考えてみてはでしょうか?」
紬の表情が少し明るくなった。
「そうっかぁ…、じゃあ、どんな時に浄化が必要なんですか?」
宗介は少し考えてから答えた。

「そうですね、例えば、とても落ち込んでいる時にリーディングをする前とかどうでしょう?ネガティブな感情が強い時は、カードと向き合う自分自身を整える必要があります。」
「ああ、なるほど」
「それから、他の人にカードを触ってもらった後も、気になるようなら浄化をした方が良いでしょうね。」

紬はコーヒーを飲みながら、親身になって話してくれる宗介の話を聞いていた。
「友達と一緒にカードを引いたら、浄化が必要ってことですか?」
「そうですね。ここはプロでも意見が分かれるところですね。一切自分のカードを人には触らせない、仕事用と自分用を分ける必要があるという信念の人もいますし、誰が触っても自分とカードを整えていれば問題ないという人もいますね。」

宗介は店の奥から、小さなクリスタルを持ってきた。透明で美しい水晶だ。
「これは水晶です。この子は、自分で浄化する力を持っています。カードも、ある程度は自分で回復する力を持っているんです。」
「カード自体に浄化力があるんですか?」
「はい。特に、明るい場所に置いておいたり、自然光に当てたりすることで、自然に浄化されることもあります。」

紬は興味深そうに水晶を見つめていた。
「じゃあ、神経質になりすぎなくても大丈夫ってことですね?」
「その通りです。」
宗介は微笑んだ。「大切なのは、紬さんの直感です。『なんとなく重い感じがする』『カードとうまくつながれていない気がする』そう感じた時が、浄化のタイミングということでしょうか。」

「つまり、直感で判断するんですね?」紬は宗介に投げかけるように言葉を発した。
「そういうことです。例えば、お気に入りの服を着ていて、『今日はなんだか調子が良くない』と感じることがありませんか?そんな時は、その服を着替えたくなりますよね。」

紬は「あぁー!」と微笑みながら、声を出した。
「分かります!なんとなくスッキリしない感じの時って、確かにありますね。」
「カードも同じです。紬さんが『なんだかスッキリしないな』と感じた時が、浄化のサインです。」
宗介は水晶をカウンターの上で軽く回した。光がきらきらと反射する。
「それから、リーディングの結果がなんとなく的外れに感じる時も、浄化のタイミングかもしれません。」
「へえ、カードって疲れるんですか?」
「疲れる、というより…。」宗介は言葉を選んだ。

「カードから受け取る感覚の状態も大きいですね。情報がごちゃごちゃになってしまうことが、しばしばあります。いろんなエネルギーが混ざって、純粋なメッセージを受け取りにくくなると言えるでしょうか。」

紬はなるほど、という表情でカードの箱を見つめていた。
「でも、毎日、普通に使う分には、そんなに頻繁に浄化しなくても大丈夫なんですね?」
「はい。紬さんが落ち着いた状態で、愛情を持ってカードを扱っている限り、カードとの繋がりが出来ていますから。」
宗介は優しく答えた。
「むしろ、浄化のことばかり気にして、カードを使うのが億劫になってしまうのは本末転倒です。」
「確かに!」
紬は手を叩いた。
「せっかく買ったのに、使わなくなっちゃったら意味ないですもんね。」
「オラクルカードは、日常的に親しんでもらうことで、紬さんとの絆を深めていきます。遠慮せずに、どんどん使っていきましょう。直感も磨かれていきます。」

紬は安心したような表情を浮かべた。
「分かりました。じゃあ、基本的には普通に使って、なんとなく『重いかな?』って感じた時に浄化すればいいんですね。」
「その通りです。それから…」
宗介は付け加えた。
「浄化の方法も、毎回お香を使う必要はありません。月光浴をさせてあげたり、きれいな布で拭いてあげたり、『ありがとう』と声をかけてあげるだけでも、立派な浄化になります。」
「声をかけるだけでも?」
「はい。カードに対する感謝の気持ちと愛情こそが、一番強力な浄化のエネルギーなんです。」
紬は嬉しそうにカードの箱を胸に抱いた。
「なんだか、カードが親友みたいに思えてきました。大切に、でも自然体で付き合っていけばいいんですね。」
「素晴らしい例えですね。」宗介は心から微笑んだ。
「大丈夫。その気持ちがあれば、きっと良いパートナーになってくれますよ。」

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