最近、僕の周りでも「テレビをほとんど観ない」「新聞は読まなくなった」という方が、本当に増えたように感じます。それは、単なる習慣の変化だけではない、もっと深い理由があるように感じます。
情報が溢れる現代社会において、僕たちは常に、様々な媒体から流れ込んでくる情報に晒されています。スマートフォンを開けば、世界中のニュース、SNSの投稿、誰かの意見や生活が、まるで洪水のように押し寄せてきます。
もちろん、情報を得ることは、僕たちの生活を豊かにし、世界を広げる大切な要素です。しかし、あまりにも多くの情報に触れ続けることは、知らず知らずのうちに、僕たちの心と身体に、大きな負担をかけている可能性があります。
なぜ、疲れる?ー情報の「受動喫煙」と心の疲弊
AQUAMIXTの黎明期、心理学をカウンセラー学院にて学んでいた頃、僕の師匠がよく言っていました。
「頭と心に入れるものには、とことん気をつけなさい。」
その言葉は、今、この情報過多の時代において、より一層、重みを増しているように感じます。
イメージしてみましょう。もし、あなたが毎日、体に毒なものを食べ続けていたらどうなるでしょう?きっと、体調を崩し、本来の健康な状態からは遠ざかってしまうはずです。それと同じように、僕たちの頭と心も、毎日、毒となり、澱みとなるような情報を摂取し続けていたら、本来の健やかさや平安さを失ってしまうのではないでしょうか。
特に、ネガティブなニュース、不安を煽るような報道、他者との比較を生むSNSの投稿などにばかり触れていると、僕たちの心は、知らず知らずのうちに重くなり、気分が沈み、無力感を感じてしまうことも少なくありません。まるで、心のコップに、濁った水がとめどなく注がれていくような状態です。
これは、僕が「情報の受動喫煙状態」と呼んでいるものです。自分から積極的に求めていなくても、周囲から勝手に流れ込んでくる情報によって、心に害が及んでしまうのです。
どうすればいい?ー森田療法から学ぶ「情報のデトックス」
このような情報過多の時代において、僕たちが心の健康を保つためのヒントを与えてくれる心理療法の一つに、「森田療法」があります。
森田療法は、日本の精神科医である森田正馬先生が創始した独自の精神療法です。この療法の中には、神経症の症状改善を図るアプローチとして、非常に特徴的な「臥褥(がじょく)」という段階があります。
これは、治療の初期段階で、患者さんが寝室に閉じこもり、食事や排泄以外は一切の活動を制限し、外部からの情報(テレビ、新聞、読書など)との接触を意図的に遮断するというものです。
森田療法におけるこの「情報遮断」の目的は、外界への過度な注意や、自分の症状へのとらわれを一時的に減らし、内面の感覚や感情に、より意識を向けさせることにあります。情報の洪水から意識的に距離を置くことで、心の静けさを取り戻し、本来の自分自身と向き合う時間を作る。これはまさに、頭と心のための「デトックス」と言えるでしょう。
スマートフォンの普及と「つながり」の代償
しかし、残念ながら、現代社会において、森田療法のような徹底した情報遮断は、多くの人にとって現実的ではありません。特にスマートフォンの普及は、僕たちを絶えず外界と「つながっている」感覚の中に置き、内なる自分の声が、かき消されがちになっています。
かつて、携帯電話が普及し始めた頃、僕たちは「いつでも誰かと繋がれる!」ということに、大きな喜びやときめきを感じたものです。それが、いつの間にか、「常に繋がっていなければならない」という強迫観念に変わり、内なる声に耳を傾ける時間を奪うものになってしまったのかもしれません。
絶えず流れてくる通知音や、SNSの更新は、僕たちの意識を外へと向けさせ、本来の自分との繋がりを希薄にしていきます。まるで外界の情報の波にさらわれるように、心が消耗していくことに、まずは気づき、意識的に距離を取ることが大切だと言えるでしょう。
「手ぶらで散歩」が教えてくれること
そんな時代だからこそ、僕は、意識的に「情報のデトックス」を行う時間を大切にしています。
例えば、僕が実践していることの一つに、「手ぶらで散歩する」という習慣があります。
スマートフォンを持たずに、ただ、ご近所を歩いてみる。公園の木々や、空を漂う雲、道行く人々の様子に、5感を研ぎ澄ませてみる。すると、普段は気づかないような、ささやかな美しさや、新しい発見がたくさん見つかります。リズミカルな運動でもあります。
この「手ぶらで散歩」は、時間もお金もかからない、いわば、僕の「コスパのいい主夫の習慣」とでも言えるかもしれませんね(笑)。でも、この短い時間の中に、僕は、かけがえのない「内なる自分とつながる時間」を見出しています。
情報に流されるのではなく、自分の心で感じること。
本当に大切なものに意識を向けること。
それは、もしかしたら、僕たちの潜在意識の声に耳を傾け、幼い日に刻まれたかもしれない「トラウマ」などから解放されるための、意外な近道になるのかもしれません。
情報は時として、怖れや不安を煽り、トラウマを刺激して、自分自身でいられなくなる誘いになりますから。
ということで、もし、心と身体が疲弊している場合、情報の「受動喫煙状態」かもしれません。
ほんの少しの時間でいいので、意識的にメディアから離れ、自分の心のための「デトックス」を始めてみるというのはいかがでしょうか?静かな時間の中で、本来のあなたの光が、きっと輝き始めるはずです。