刻詠珈琲店29杯目「彼の気持ちなど他人のことで引いてもいい?」オラクルカード【向き合い方編】

カードの使い方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

前回までの話はこちら。

紬は、少し考え込んでから、また口を開いた。

「宗介さん、さっきの話を聞いて思ったんですけど、恋愛だけじゃなくて、たとえば、仕事仲間との関係とか、家族のこととかも、やっぱり他人の気持ちを占うのは良くないんでしょうか?」
紬の真剣な眼差しに、宗介はゆっくりと頷いた。

「そうですね。それはオラクルカードと向き合う上で、とても大切な心構えだと思います。他人の気持ちや行動を占うことは、恋愛に限らず、あまりおすすめはしていません。」
「やっぱり、そうなんですね…。」
「理由は、先ほど話したことと繋がっているんですが、もう一つ、とても重要な理由があります。」宗介は真剣な眼差しで紬を見つめた。

「何ですか?その重要な理由って…。」紬は神妙な面持ちになった。

「紬さん、それは、『自由意志の尊重』ということです。」
宗介は、窓の外に目をやった。夜空には、星々が静かに瞬いている。

「この宇宙には、一つの絶対的な法則があります。それは、すべての魂が自由意志を持っている、ということです。紬さんにも、私にも、そして、紬さんが気になっているその人にも、自分の人生を選び、自分の道を歩む権利があります。」
「自由意志…」
「そうです。もし、紬さんが他人の心を覗き込もうとすれば、それは、その人の自由意志に、紬さんが干渉しようとすることになります。たとえ、それが善意からであっても、それは侵してはならない領域ということです。」
宗介は、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめて言った。

「オラクルカードは、紬さんの心に光を当てるための鏡ですね。紬さんは、この鏡を使って、自分自身を映し出すことはできます。けれど、この鏡で、他人の心を覗き込むことはできません。もし、無理に他人の心を占おうとすれば、それは、紬さん自身の心を映すべき鏡が、曇ってしまうことにつながります。」

「そうかぁ…。鏡が曇るってことなんですね。」

「ええ、そうです。そして、他人の気持ちや行動は、その人自身が決めて、経験し、学ぶべきことです。他の人間が、その人の人生に干渉することは、本来の意味ではできません。それは、他人の人生という名の本を、他の人間が勝手に書き換えてしまうようなものだと思いますよ。」

紬は、少し困ったように眉をひそめた。
「でも、仕事で一緒に働いている人が、私のことをどう思っているか気になることってあるんです。それも、占っちゃダメなんですか?」
「その気持ちは、とてもよく分かります。けれど、代わりに、こう質問してみてはどうでしょうか。『私は、あの人との関係の中で、何を学ぶべきだろうか?』と。そして、『あの人との関係を、より良いものにするために、私は今、何をすればいいのだろう?』など、そう問いかけてみるのです。」

「なるほど!質問の方向を、相手から私自身に変えるんですね!」
「そうです、その通りです。オラクルカードは、紬さんがその人との関係性の中で、より成長するためのヒントを与えてくれるわけです。仕事仲間との関係で悩んでいるときに、『相手は私をどう思っている?』と聞いても、明確な答えは出ないかもしれない。しかし、『この関係性から、私は何を学ぶべき?』と聞けば、『境界線を引くこと』や、『自分を大切にすること』といった、紬さんにとって本当に必要なメッセージが届くはずです。」

宗介は、穏やかな笑顔で付け加えた。
「そして、もう一つ重要なことがあります。それは、人間関係は、常に双方向だということです。相手があなたをどう思っているか、ということと、あなたが相手をどう思っているか、ということは、表裏一体なんです。」
「表裏一体…?」
「はい、密接に関係しています。もし、紬さんが『あの人は私を嫌っているのではないか』と不安に思っているなら、その不安は、紬さん自身の心が作り出した鏡像かもしれません。実は、紬さん自身が、その人に対して心を開いていないのではないか、と紬さん自身に問いかけてみる必要があると思います。」
宗介は、自分の胸に手を当てた。

「なるほど!そういうことなんですね。私が怖がりだったのかも。」紬は正直に言った。

「そうですね、人間関係は、わたしたち自身の心を映す鏡だ。紬さんが、自分を愛し、大切にすれば、紬さんの周りにも、紬さんを愛し、大切にしてくれる人が集まってきます。同じように、紬さんが、相手を信頼し、尊重すれば、相手もあなたを信頼し、尊重してくれる。これは、宇宙の法則と言えます。」

「…なんだか、少し肩の荷が下りたような気がします。今まで、他人の気持ちに振り回されてたんだなって。」

「紬さんは正直な人ですね。素敵なことだと思います。他人の気持ちは、わたしたちの人生を左右するものではありません。わたしたちの人生を左右するのは、わたしたち自身の心と、わたしたちの行動です。オラクルカードは、紬さんがそのことを思い出し、自分らしい人生を歩むための、心強い味方なんですよ。」
宗介は、温かい眼差しで紬を見つめた。

「他人の心を覗こうとするのではなく、その人との関係性から、紬さんが何を学べるかに焦点を当ててみましょう。それが、オラクルカードを使った人間関係の悩みへの向き合い方です。紬さんが変われば、あなたを取り巻く世界も変わっていきます。その第一歩を、オラクルカードは優しく照らしてくれるわけですね。」

紬は静かに、目を閉じて、深呼吸をした。

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