刻詠珈琲店20杯目「カードのメッセージが『逆の意味』と感じた時は?」オラクルカード【解釈・読み解き編】

カードの使い方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

秋の気配を感じさせる涼しい風が吹く平日の夕方。
『刻詠珈琲店』には読書や思索にふける客たちがゆったりと時を過ごしていた。
夕日が窓辺を柔らかく染め、店内には落ち着いた雰囲気が漂っている。

紬は久しぶりに予定を入れない平日の休暇を過ごせて、
リラックスした表情で店を訪れた。
宗介は秋の新メニューの準備をしながら、紬を迎えた。
「こんにちは、宗介さん。今日はいい風が吹いてますね。」
「こんにちは。季節の変わり目らしい、心地よい風ですね。」
紬はいつものカウンター席に座ると、オラクルカードを取り出した。
今日は少し困った表情をしている。
「今日はスパイスティーをお試しください。急に涼しくなりましたからね。体を温めてくれます。」
「ありがとうございます。」
宗介が差し出したティーからは、シナモンとカルダモンの香りが立ち上る。
「実は、昨日家でリーディングしてたら、ちょっと困ったことが起きて……」
紬はカードを見つめながら話した。

「『豊かさ』のカードが出たんですけど、今の私の状況とは真逆なんです。お給料は上がらないし、貯金も減る一方だし……」
「逆の状況……」
「それで思ったんですけど、カードが示すメッセージって、時々逆の意味で解釈した方がいいことってあるんでしょうか?『豊かさ』が出た時に『今は豊かではない』って意味で読むとか」
宗介は静かに考えてから答えた。
「逆の意味について、どう感じましたか?」
「うーん……」
紬はスパイスティーを一口飲んで考えた。
「最初は『カードが間違ってる』って思ったんですけど、でも何か意味があるのかもって思い直して。もしかして『豊かさを求めなさい』とか『豊かさに気づきなさい』って意味なのかなって」
「素晴らしい洞察ですね」宗介は微笑んだ。
「実は、カードのメッセージを『逆の意味』で読むことは、とても重要な技術なんです」
「重要な技術?」
「はい。ただし、ただ単に反対の意味に取るのではなく、もう少し深く考える必要があります」
宗介は店の奥から、厚めのノートを持ってきた。
「まず、『逆の意味』には、いくつかのパターンがあります」「パターン?」

「一つ目は『不足を示すパターン』です」
宗介は説明し始めた。
「『豊かさ』のカードが出た時に、『今、豊かさが不足している』という警告を示している場合があります」
紬は興味深そうに聞いていた。
「警告……」

「二つ目は『過剰を示すパターン』です」
「過剰?」
「例えば『愛』のカードが出た時に、『愛情を与えすぎている』『愛に依存しすぎている』という意味の場合があります」
「なるほど、足りないか、やりすぎか、ということですね」
「その通りです。」

「そして三つ目が『内面への転換パターン』です」
宗介はノートに簡単な図を描いた。
「外側の『豊かさ』ではなく、内面の豊かさに目を向けなさい、という意味です」
「内面の豊かさ……」
「物質的な豊かさは今はなくても、精神的な豊かさ、人間関係の豊かさ、経験の豊かさなど、別の角度での豊かさがあるのでは、という示唆です」
紬は「あー」と深くうなずいた。
「それだったら、確かに当てはまります。最近、友人関係がすごく充実してるし、新しいことを学ぶ機会も増えました」

「四つ目は『ブロックを示すパターン』です」
「ブロック?」
「豊かさを受け取ることを、あなた自身が無意識にブロックしている可能性があります」
宗介は説明した。
「『私にはお金を受け取る価値がない』『豊かになると悪いことが起きる』といった思い込みです」
紬は考え込んだ。
「うーん、確かに『お金を稼ぐのは大変なこと』って思い込んでるかもしれません」

「そして五つ目が『タイミングのずれパターン』です」
「タイミングのずれ?」
「今すぐではないけれど、近い将来に豊かさがやってくる。準備をしておきなさい、という意味です」
宗介はノートのページをめくった。

「では、どうやって正しい逆の意味を見つければいいか、お教えしましょう」
「お願いします」
「まず、現在の状況を正直に見つめることです」
「現在の状況を……」
「お金の面だけでなく、健康、人間関係、仕事、精神的な状態など、あらゆる角度から『豊かさ』を考えてみてください」
紬はじっくりと考えてみた。
「お金は確かに厳しいですけど、健康は良好だし、友達も増えたし、仕事も充実してきました」
「それは十分に豊かな状態ですね」
「そう言われると、確かに……」
「次に、そのカードが『今のあなたに最も必要なメッセージ』だとしたら、どんな意味になるか考えてみてください」
宗介は優しく促した。
「最も必要なメッセージ……」紬は深く考えた。
「もしかして『お金のことばかり考えないで、今ある豊かさに気づきなさい』ってことでしょうか?」
「それは素晴らしい解釈ですね」
「それから『今の精神的な豊かさを大切にしていれば、物質的な豊かさもついてくる』とか?」
「どちらも、とても建設的な読み方です」
宗介はスパイスティーのおかわりを用意した。

「逆の意味を読む時の注意点もあります」
「注意点?」
「ネガティブな解釈ばかりに偏らないことです」宗介は説明した。
「『豊かさ』が出て『貧乏になる』と読むより、『豊かさへの道筋を見つけなさい』と読む方が建設的です」
「確かに、ネガティブに解釈しても気分が悪くなるだけですね」

「それから、文脈を大切にすることです」
「文脈?」
「あなたが何について質問したか、どんな状況で相談したか、によって逆の意味も変わります」
紬は納得して頷いた。
「同じ『豊かさ』でも、恋愛相談の時と仕事相談の時では、逆の意味も違うってことですね」
「その通りです。恋愛なら『愛情の豊かさに気づく』、仕事なら『スキルの豊かさを活用する』といった具合に」

紬はノートを見ながら考えていた。
「逆の意味を読むって、すごく深い作業なんですね」
「カードリーディングの真髄の一つです」宗介は静かに語った。

「表面的な意味だけでなく、隠された深いメッセージを読み取ることで、より豊かなガイダンスを受け取れます」
「今度からは、一見合わないカードが出ても、慌てずに深く考えてみます」
「きっと、カードからより深いメッセージを受け取れるようになりますよ」

宗介の言葉に、紬は新しい視点への期待を胸に、秋の夕暮れを楽しんだ。

タイトルとURLをコピーしました