刻詠珈琲店6杯目「目を閉じて引いた方がいい?」オラクルカード【引き方・作法編】

カードの使い方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

金曜日の夜、仕事を終えた紬が『刻詠珈琲店』の扉を押し開けた。店内には古い時計の音と、コーヒーの香りが静かに漂っている。宗介は、いつものように穏やかな表情で彼女を迎えた。

「マスター、また質問があるんですけど……。」

「どうぞ。」

宗介は淹れたてのコーヒーを紬の前に置いた。

「カードを引く時って、目を閉じた方がいいんですか? それとも開けたまま? 『目が合ったカードを選ぶ』って人もいれば、『目を閉じて直感で』って人もいて……どっちが正しいんでしょう?」

「いい質問ですね。正しいかどうかはあまりなくて、どちらでもいいと思いますよ。」

宗介の簡潔な答えに、紬は少し拍子抜けした様子を見せた。

「また『どちらでも』ですか……。でも、何か違いはあるんですよね?」

宗介はゆっくりと古いオルゴールのねじを巻きながら答えた。

「もちろん、違いはありますよ。でも、正解はないと言ったほうがいいでしょうか。」

オルゴールから静かなメロディーが流れ始める。

「目を閉じるということは、外の世界から一度離れるということでしょうか。もちろん、個人の感じ方の差はありますけどね。でも、視覚という最も強い感覚を遮断することで、紬さんは内側に意識を向けることができると思いますよ。」

「内側に……。」

「そう。普段、僕たちは目から入る情報に頼りすぎています。他人の顔色、周りの様子、見た目の印象。それらが時に、内側にある、本当の声をかき消してしまうことも多々あります。」

宗介はカウンターに並べたカードを指さした。

「目を閉じて引く時、紬さんの手は何に導かれると思いますか?」

「えっと……直感?」

「そうです。もっと深いところにあるもの、紬さん自身も気づいていない、心の奥底にある声です。それは理屈では説明できないものですが、確かに僕たちを導いてくれるものです。」

紬はコーヒーを一口飲んで、考え込んだ。

「じゃあ、目を閉じて引くのが良いんですか?」

「もちろん、そうとも限りませんよ。」

宗介は棚から別のカードデッキを取り出した。

「目を開けて引くことにも、別の意味があります。カードと目が合う瞬間、そこには視覚を通じた対話が生まれていると考えてみてください。色、形、そこに描かれた存在たち。それらが紬さんの心に直接語りかけてきます。そんな感覚でしょうか。」

「なるほど……。」

「例えば、街を歩いていて、ふと目に留まる看板がある。特に理由はないのに、なぜか気になる花がある。それと同じです。目を開けて選ぶ時、紬さんの視覚的な直感が働くということですね。」

「うーん、つまり、どっちも直感なんですね。でも種類が違う。」

「その通り。目を閉じれば内なる直感、目を開ければ視覚的な直感。どちらも僕たちの一部なんです。」

宗介はオルゴールの音が止まるのを待って、続けた。

「大切なのは、その時の紬さんがどちらを必要としているか。騒がしい一日の後なら、目を閉じて静寂を求めるかもしれない。新しい視点が欲しい時は、目を開けてカードと対話するかもしれませんよ。」

「その時の気分で決めていいんですか?」

「気分というより、心の状態ですね。今日の紬さんは、どちらの方法に惹かれますか?」

紬は目を閉じて、そして開いて、交互に試してみた。

「今日は……、目を開けて選びたい気分です。カードの絵を見ながら、対話してみたい。」

「いいですね、それが今日の君の答えですよ。」

宗介は微かに微笑んだ。

「正しい方法を探すのではなくて、今の自分に合う方法を感覚的に見つけていくわけです。それがカードとの付き合い方です。」

「宗介さん、ありがとうございます。分かりました!毎回違う方法を試してみて、その時々の自分と向き合ってみます。」

「素敵ですね。カードは紬さんの鏡。引き方もまた、紬さん自身を映し出します。それに自分を委ねてみるといいですね。」

紬は新しいカードを取り出し、今度は目を大きく開けて、一枚一枚をじっくりと見つめた。

その瞳には、カードとの新しい対話への期待が輝いていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました