彼はポラリティ中毒「犠牲は最高にハイってやつだぁぁ!」

アクセス・コンシャスネスTM

人は人生に「物語」を求める。
それは生きているという実感を持つためかもしれない。

その感情を激しく揺さぶるような「物語」があることで人は奮い立ち、怖れを克服することもある。
その反面、その「物語」は人生の大きな障害となって立ちはだかり、
人を鍵のかかっていない牢獄に拘禁することもある。

「物語」は二極性を取り込み、さらに躍動感のあるものとなる。
二極性とは、ポラリティなどと訳される。

「挫折・成功」「希望・絶望」「歓喜・悲痛」「優勢・劣等」「生・死」
「躁状態・鬱状態」「賛成・反対」「順風・逆境」「幸福・不幸」…。

その単語を目にしただけで、心が沸き立つこともあるかもしれない。
または、身体がこわばるような氣持ちになるかもしれない。

「物語」は「トラウマ」「ドラマ」と呼ばれることもある。
または、「脚本」「大義名分」「信念」「観念」などとも名を変えることもある。

これは、二極性に陥りがちな男のとある日常を描いたものである。40cda189195fcdf3dd13c11f312c10f5_s

彼には妻がいた。
その妻のために、何かしてあげられないだろうかといつも思うのであった。

彼の頭では、愛する人のために貢献することの素晴らしさを思っていたが、
心の奥底では、愛する人のために犠牲になるということの高揚感は否定できなかった。

犠牲になるということに、たまらなく惹かれてしまうわけである。

クリスマスイブを目前にひかえた平日の昼。
その日は、彼がDVDレンタルのために「TSUTAYA」に行く予定だった。

そのことを彼女に伝えた時、彼女は「ついでにビールを買ってきて!」と彼に頼んだのだった。

「うん、分かったよ。でも、何を借りるか迷ってしまうかもしれないから遅くなるかもよ。」と念押しておくと、

生返事で彼女はひとこと、「あん?イイよ。」と応えたのだった。

早速、彼は車に乗り込み、DVDは何を借りようか?と思いながら、運転をしていると
ふと、その前に郵便局での用事を思い出した。
ちょうどいい、年賀状を出しておこうとカバンに入れっぱなしだった年賀状を出しに郵便局に寄った。

郵便局での用事を終えると、彼はTSUTAYAに急いだ。

12月は道路が混み合う。
彼の運転する車も、渋滞につかまった。

「彼女、待っているのに。」

心がざわつき出すのを彼は感じていた。

「このままだと、彼女が楽しみにしているビールを買うのが遅れてしまう!」
「彼女の喜ぶ顔が見たい、彼女の氣持ちを優先させたい!」

彼はTSUTAYAに行くはずの交差点を通り過ぎ、ビールを先に買うことにした。
ビールを売っているスーパーマーケットでは、
クリスマスイブだからか、ローストチキンが売り場に並んでいた。

「ビールとローストチキン!彼女、喜ぶだろうなぁ!」

彼女の喜ぶ顔を思い浮かべると、幸せな氣持ちになるのだった。

「待っててねぇ!君の好きなローストチキンとビールを買って帰るからね!」
彼は車中で叫ぶと、家路に急ぐのだった。

TSUTAYAでのDVDレンタルをあきらめ、彼女を優先させたことに陶酔し、氣分が良かった。

「俺、彼女のために犠牲になったよ!」
「これが無償の愛だ!」

家のドアを開けると、DVDを観て笑っている彼女がいた。

「あれ?早かったのね、好きなDVDは借りられたの?」
彼女は、不思議な顔で彼の顔を見ていた。

「ウフフ、これ、なんだか分かる?」と喜ばせたい思いでいっぱいの彼だった。

「何?ビールだけじゃないのね?」

「そうだよ、ビールとローストチキン!」

「あ、売ってるんだね?ローストチキン。」
彼女の反応が薄いことに、彼は冷や水を浴びせられたような氣持ちになるのだった。

「ビール、早く飲みたかったんじゃないの?」と彼。

「いや、あったらいいなぁ、くらいだよ。
すぐに飲みたいなら、歩いて数分の24時間スーパーで自分で買いに行くよ。」と彼女。

「ローストチキンは?」

「嬉しいけどね…。」

彼は自分のしたことの意味を知りたかった。
なので、彼女に訊いてみた。

「ひょっとして、僕のやったことは余計なこと?DVD借りずに帰ってきたんだ…。」

「なんで???」

この彼は実在する。
彼の犠牲的で自分勝手は愛(と言えるのか?)は確かに存在する。

この彼の存在は許されている。

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