刻詠珈琲店30杯目「抽象的な質問『今日の私へのメッセージは?』でもいいの?」オラクルカード【引き方・作法編】

カードの使い方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

秋が深まり、冬の気配が囁き始める頃、10月も終わりを告げる平日の夜。

『刻詠珈琲店』は、温かなオレンジ色の光をそっと湛えていた。日中に纏わりついた冷たい空気が、ドアをくぐった瞬間に融けていく。それは単に室温の心地よさだけではない、マスターである宗介の淹れる珈琲の湯気や、静かに流れる時間に織り込まれた人の温もりがそうさせているのだろう。

窓の外を吹き抜ける夜風には、もうすぐ訪れる冬の予感が混じり始めている。店内のコントラストが面白い。暖炉のそばでは、一人の女性客が厚手のブランケットを膝にかけ、深く読書に耽っている。その隣のカウンター席では、娘の写真を見ながら、スマートフォンを操作する男性が微笑みながら、コーヒーを飲んでいる。それぞれの孤独な時間を優雅に過ごしていた。

仕事帰りに店に入ってきた紬が、宗介を見つけて駆け寄ってきた。

「ねえ、宗介さん。さっき、仕事終わりに自分を励ます意味でも、カードを一枚だけ引いてみたんですよ。『今日の私へのメッセージは?』って…。
紬は、少し照れたように言った。

「そしたら、とても優しい感じのカードが出たんです。でも、解説書を読んでも、正直言って、よく分からなくて。だって、『今日の私へのメッセージ』なんて、抽象的すぎて答えようがないですもんね。」
紬は、不安そうな顔で宗介を見た。

「そうですね、紬さんの質問は、オラクルカードと向き合う上で、とても大切なものだと思いますよ。」
宗介は、穏やかに語り始めた。
「え、そうなんですか?『転職は成功しますか?』みたいに、具体的な方がいいのかと思ってました。」紬は意外な顔をしながら、宗介の言葉を待った。

「具体的な質問も、抽象的な質問も、どちらも大切な意味がある。今日の紬さんに何も引っかかることがなかったとしますよね。そんなときに『今日の私へのメッセージは?』と問いかければ、心がまっさらになります。そして、それやより広い視点からメッセージを受け取るための大切なステップになります。」

宗介は、カップに注いだばかりのコーヒーを、ゆっくりと口に含んだ。

「具体的な質問は、特定の悩みに焦点を当てます。一方、抽象的な質問は、紬さんの心全体に光を当てます。それは、少し難しい言い方をしますが、宇宙のエネルギーを感じ取ろうとする行為とも言えるんです。」
「宇宙のエネルギー…?」
紬は理解しようとやや前のめりになった。

「はい、そうです。オラクルカードは、宇宙の英知や、高次元の存在からのメッセージを伝えてくれます。ですので、紬さんが今、意識している課題とはまったく別の、もっと根本的な部分に光を当ててくれることもあります。仕事のことで悩んでいるときに『今日の私へのメッセージは?』と聞いたら、恋愛に関するカードが出るかもしれないわけです。というのも、今、紬さんが本当に向き合うべきは、仕事ではなく、心の奥底にある恋愛への不安かもしれないとカードが教えてくれているんです。」

「なるほど!質問の仕方で、受け取るメッセージの深さが変わるんですね。」
ー紬の表情が和らいだ。

「その通りです。抽象的な質問は、日々の生活で見落としがちな、ささやかな幸せや、小さな変化に気づくきっかけにもなります。『穏やかな時間』を意味するカードが出たとしますよね?それは、すなわち、通勤途中に見た美しい夕焼けや、誰かからかけられた優しい一言を、もっと大切にしてみませんか?というメッセージかもしれないわけです。」
宗介は、穏やかな笑顔で付け加えた。

「オラクルカードは、紬さんの人生を、より豊かで意味のあるものにするためのパートナーと言えるでしょう。具体的な質問は、今、何をすべきかという行動のヒントを与えてくれます。抽象的な質問は、人生全体をもっと大きな視点から捉え直し、紬さんの心の奥底に眠っている真実のメッセージを教えてくれることも間々あります。」

「なんだか、奥が深いですね…。」紬は静かに息を吐きながらつぶやいた。

「そうなんです。ですから、その日の気分や、心の状態に合わせて、質問の仕方を変えてみればいいと思いますよ。今日のように、なんだかモヤモヤするなというときは、『今日の私へのメッセージは?』と聞いてみる。具体的な悩みがあるときは、『どうすればこの問題を解決できますか?』と尋ねてみる。そのような感じで、使い分けてみてはどうでしょうか。」

宗介は、優しく紬の瞳を見つめた。

「オラクルカードとの対話に、ルールはありません。紬さんが一番心地よく、楽しく、そして自分の心の声に耳を傾けられる方法で、カードと向き合えばいいと思います。そうしていくと、どんどん自由な発想を使って、より深いメッセージへと紬さんを導いてくれますよ。」

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