娘の小葉が生まれてくる前、寛子とよく海外を旅行することがよくありました。
しかし、ふたりの旅行に対する考え方や姿勢が全く違うので、よく喧嘩になったり、僕が一方的に弱音を吐いたりといつも賑やかな旅になるのでした。
慣れない左ハンドルで、これまた慣れない運転事情のイタリアで心細く、プレッシャーを感じながら、運転していると氣づいたことがありました。
「そういえば、今夜泊まるところってどこだっけ?」
と僕が海外慣れしている寛子に尋ねると、まさかの答えが返ってきました。
「そうだね、そろそろ宿探そうか?」
日が暮れてきて、うっすらと夜の香りが漂い始めてきた頃、隣のシートに座っている陽気な女性は、僕の不安を煽るのでした。
「え!!?今から探すの?何それ?予約していないの?」
不安を押し隠し(たつもりで)、畳みかけるように寛子に尋ねると、
「良い宿が見つかると良いねぇ。」
と呑気に微笑んでいました。
「旅行って、きちんと宿を予約しておくものじゃないの?」と僕。
「現地で素敵な宿が見つかったほうが楽しいじゃない?」と寛子。
震える手でハンドルを握る僕は、不安と怖さから憤りすら感じていました。
それなのに、ロータリー式の交差点というやっかいなものが立ちはだかり、車の流れに進入したは良いけど、ぐるぐるぐるぐる回りつづけました。
カーナビなどもなく、地図を見ながら運転しているのに、ロータリー式の交差点で方向感覚を失い、平常心も失いました。
パニックです。潤治。
結局、高台の良い宿に泊まれたのですが、僕は泣き腫らした後でした。
「天使にお願いしておいたの!高台で静かな良い宿!」
無邪気に微笑む寛子に、僕の「人生のすべてをコントロールしなければならない」という思いがなんだかばからしくなっていった瞬間でした。
その後もことごとく、天使にお願いしておくと良いよ!という寛子の旅路で、素晴らしい宿、食事処、出逢いが訪れるわけです。
「あああ~ん、もう!降参降参!結局、楽しくなっちゃうんでしょ?」
「どうぜ、良い旅になって、楽しかったね、と後で言い合うんでしょ?」
「もう、考えただけバカじゃない?結局、その通りにならないんだから!」
イタリア旅行での寛子の現地調達主義に、僕の事前に用意して荷物も心配もパンパン状態はあまりにバカらしくなりました。
オランダにはこんなことわざがあります。
「くよくよしてもしかたがない。
どのみち予想したとおりにはならないのだから」本当にそう思うわ。 ―オードリー・ヘップバーン(英国の女優)
不便でも現地調達を心がけると、そこにはたくさんの氣づきや出逢いがあります。現地での直感を信頼した旅はとてもそのことを教えてくれるのでした。
そのような旅行が続くのですが、その話はまたにできればと思います。