刻詠珈琲店17杯目「リーディング前の『意図の設定』とは?」オラクルカード【引き方・作法編】

カードの使い方

路地裏にある、アンティークカフェ『刻詠珈琲店』(ときよみこーひーてん)。
マスターは東儀 宗介(とうぎ そうすけ)、かつて天使だった頃の名は、メネフィール (Menephiel)。
仕事帰りや週末に通う常連OKは、小鳥遊 紬(たかなし つむぎ)、28歳。中堅デザイン事務所のグラフィックデザイナー。

穏やかな土曜日の午前中、『刻詠珈琲店』には週末らしいゆったりとした時間が流れていた。
窓辺の席では読書を楽しむ老紳士がいて、奥のテーブルでは若いカップルが静かに語り合っている。

紬は珍しく余裕を持って店を訪れ、いつものカウンター席に座った。
宗介は週末限定のフレンチトーストの準備をしながら、紬を迎えた。
「おはようございます。今日は早いですね。」
「おはようございます、宗介さん。今日は朝からカードの練習をしようと思って、早めに来ちゃいました。」
紬はいつものオラクルカードを取り出しながら、少し張り切った様子で話した。
「練習ですか。それは良いですね。」
「でも、昨日家でカードを引いてみたら、なんだかピンとこなくて…。」紬は少し困った表情を見せた。
「カードは『新しいチャンス』って出たんですけど、『何の新しいチャンス?』って感じで、曖昧すぎちゃって。」
宗介はフレンチトーストを丁寧にひっくり返しながら聞いていた。
「どんな質問をカードにしたんですか?」
「えーっと…『今の私に必要なメッセージをください』って。」
「なるほど。」宗介は頷いた。
「それでしたら、まず『意図の設定』をしてみましょうか。」
「意図の設定?」紬は首をかしげた。
「また新しい言葉が出てきました。」
宗介は焼き上がったフレンチトーストを紬の前に置いた。
バターとメープルシロップの甘い香りが立ち上る。

「意図の設定というのは、リーディングを始める前に、『何のために』『どんな目的で』カードを引くのかを明確にすることです。」
「ああ、目的を決めるってことですか。」
「その通りです。」宗介は静かに説明を続けた。
「先ほどの『今の私に必要なメッセージをください』という質問は、確かに丁寧ですが、少し漠然としていますね。」
紬はフレンチトーストを一口食べながら考えていた。
「確かに…『何について』必要なメッセージなのか、具体的じゃないですね。」
「例えば…。」宗介は店の奥から小さなノートを持ってきた。
「『今抱えている仕事の悩みについて、どう向き合えばいいかアドバイスをください』と言えば、どうでしょう?」
「おお、ずっと具体的になりますね!」
「ねっ、そうでしょ?。意図が明確になると、カードからのメッセージも、より具体的で実用的なものになります。」
紬は興味深そうにノートを見つめた。

「でも、意図の設定って、どうやってやるんですか?」
宗介はノートを開いて見せた。そこには、きれいな字でいくつかの質問例が書かれている。
「まず、今の紬さんが一番気になっていることは何ですか?」
「えーっと…」紬は考えながら答えた。
「やっぱり仕事のことですね。新しいプロジェクトを任されたんですけど、うまくできるか不安で…。」
「それは大きなテーマですね。」宗介は微笑んだ。
「では、そのプロジェクトについて、具体的に何を知りたいですか?成功させるための方法?それとも、不安を乗り越える方法?」
「そうですね、うーん…。」紬はフレンチトーストを食べながら考えた。
「両方知りたいけど、まずは不安を乗り越える方法かな。毎日ドキドキして、なかなか眠れないんです。」
「眠れないのはたいへんです。それでしたら…。」宗介はノートに何かを書き込んだ。
「『新しいプロジェクトへの不安を乗り越えて、自信を持って取り組むためのアドバイスをください』というような意図はいかがでしょう?」
「わあ、すごく具体的になりました!」

「意図が具体的になると、紬さん自身も『何を求めているのか』が明確になります。そして、カードからのメッセージも、より的確なものになるんです。」
紬は感心したように頷いた。
「なるほど。わたしの求めているものを明確にするんですね。じゃあ、意図の設定をしてからカードを引けば、昨日みたいに『なんのこと?』って困ることもなくなるんですね。」
「そうです。可能性は高くなりますよ。」宗介は答えた。

「ただし、意図の設定にもコツがあります。」
「コツ?」
「まず、一度に複数のことを聞かないことです。」宗介は指を一本立てた。
「『仕事と恋愛と健康について教えて』というような欲張りな質問は避けましょう。」
紬は「あー!」と声を出した。
「やっちゃいそう。一度にいろんなことが気になっちゃうんです。」
「お気持ちは分かります。」宗介は優しく笑った。
「でも、一つずつ丁寧に向き合った方が、より深いガイダンスを受け取れますよ。」
「分かりました。一回一テーマですね。」

「そして…、」宗介は続けた。
「ネガティブな言葉を避けて、ポジティブな表現を使うことも大切です。」
「ポジティブな表現?」
「例えば『失敗しないためには』ではなく、『成功するためには』と聞く。
『不幸にならないためには』ではなく、『幸せになるためには』と聞くということです。」

紬は納得したような表情を見せた。
「確かに、聞き方によって気持ちも変わりそうですね。」
「そうなんです。カードは、紬さんの潜在意識と繋がります。ポジティブな意図を設定すれば、ポジティブなメッセージを受け取りやすくなるんです。」

宗介は店の古い時計を指差した。
「それから、時間も意識してみてください。」
「時間?」
「『今すぐに』『今週中に』『一年後には』など、いつまでのアドバイスが欲しいのかを明確にすることです。」
紬は興味深そうに聞いていた。
「時期によって、アドバイスの内容も変わるんですね。」
「そうです。短期的な対策と、長期的な展望は違いますから。」

紬はノートを見ながら考えていた。
「じゃあ、実際に意図の設定をやってみてもいいですか?」
「もちろんです。応援しています。」
紬は深呼吸をして、カードを手に取った。
「えーっと…『新しいプロジェクトで自信を持って力を発揮するために、今週から実践できることを教えてください』。」
「素晴らしい意図設定ですね。」宗介は満足そうに頷いた。
「具体的で、ポジティブで、時期も明確だと思います。」
紬は嬉しそうに微笑んだ。
「なんだか、これなら良いメッセージがもらえそうな気がします。」
「そうです、そうです!紬さん、その調子です。きっと、昨日とは違った結果になると思いますよ。」
宗介の言葉に、紬は期待を込めてカードをシャッフルし始めた。

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